
今回のテーマは「現場から離れては戻りの繰り返し」です。
先日、クライアントの方から「電気工事の請負を行なう会社を経営しています。社員は8名です。私は60歳手前で、現場でのフル稼働がしんどくなってきました。何度も現場から離れる決断をしてきましたが、仕事の依頼が増えても断れず、社員も手一杯。結局、私が現場に戻ってしまうのです。無理して社員にお願いすれば良いのでしょうが、過去に退職に繋がったこともあり躊躇しています。
社長が現場から離れるための優先順位はあるのでしょうか」というご相談をいただきました。
経営者が現場を離れるために行なったことが裏目に出て、結局現場に引き戻され、がんじらめになっていく。これこそ、オーナーズトラップの恐ろしいところです。この状態から抜け出すには、長期的な戦略が必要となります。今回は、経営者が現場を離れていくまでのプロセスを一緒に見ていきましょう。
「社長が不在でも事業を拡大する方法」という言葉を見て、「安東さんが言っていたから、顧客を社員に任せて現場を離れました!」と実践する経営者の方もいます。でも、もし本当にそれですんなり離れられるなら、今回の相談者さんのように悩むことはないはずです。
相談者さんが行なっている電気工事の請負とは、労働集約型の仕事です。経験も技術も必要な仕事だからこそ、社長以外に任せられる人材はなかなかいないものです。実際に任せたら社員はいっぱいいっぱいになる。だからいつも、社長に仕事が戻ってくるのです。
重要なのは、一定数の余剰人員を雇って、時間をかけて教育することです。そうしないと、オーナーズトラップから抜け出せません。きっと相談者さんも社員に任せてみたものの、人員に余裕がなく請けた仕事を捌ける人がいなくて、現場に戻ることになったのでしょう。
一般的に経営者は社員2~3人分の売上を担っているといわれます。言い換えると、2~3人の余剰人員がいれば、仕事を任せられます。それを実現するために必要なのは、今の人員体制の中で、数人分の余剰人員をつくれるだけの利益をあげることです。
まず私が取り組んだのは、自分自身が稼ぐことでした。短期的に無理をしてでも、自分が人の3倍働いて5倍稼ぐというスタイルです。そうやって稼いだ余剰の利益を採用や教育のために投資していったのです。ただし、長く続けられる働き方ではないため、5年間だけと決めて、稼いでは投資することを繰り返しました。
その中で意識していたのは、人が辞めにくい会社づくりです。「人間関係がよく、心理的安全性の高い環境をつくる」「残業時間の長さと離職率の高さは比例するため、できる限り残業を減らす」「仲間意識や一体感を高める教育を行なう」。こうした取り組みによって会社に愛着が湧くと、社員はもっと上を目指すようになり、どんどんレベルが向上します。
教育が進んでいる間にも、歯を食いしばって稼いでいたものの、いつまでも3倍は働けません。次はどうすれば少ない労力で5倍稼げるか考えました。そこで着手したのが、「1度稼働することで繰り返し利益が出る事業」です。DVDや動画のオンライン販売を行ない、従業員1人分の年収(300~500万程度)が入ってくる仕組みを構築しました。
会社の戦略を何度も練り直し、ライバルとの差別化を進めると、料金を安く叩かれることもなくなります。徐々にサービスの値上げを行ない、稼働を3倍から1.5倍に減らしても5倍の売上が維持できるようにしました。すると、私自身にゆとりができ、教育を行なう時間が生まれます。少しずつ仕事の仕方をシフトしていき、今では人を採用して教育すればコンサルティングを任せられるようになりました。
私たちのこだわりは、自社に合った人を採用するためにお金と時間と労力をかけることです。自社にフィットした人なら教育が順調に進みますが、自社に向かない人、能力が合っていない人はいくら時間をかけても教育が難しいからです。ブレインマークスでは採用が仕組み化されたことで、安定して自社に合った人を採用できるようになりました。仕事を任せられる人材が増えたことで、私の仕事は着実に減っています。5年でこの状態になる予定が実際には7年かかりましたが、あと3年で権限委譲まで完了する見通しです。
ブレインマークスは再現性を出すために試行錯誤したので権限委譲までに10年かかりましたが、皆さんはそれよりも短い期間で実現できるはずです。「社長自身が数倍働くこと」「差別化して価格の高い仕事を請け負うこと」など、収益性を上げることから始めて余剰人員を雇い、教育して任せていく。これがオーナーズトラップを抜け出す最初のきっかけです。覚悟を決めて、取り組んでみてくださいね。応援しています。