今回のテーマは「同族会社の事業承継。後継者が抱える葛藤とは?」です。
「弊社は地域密着型の小売店を営んでおり、200名ほどの従業員がいます。創業者は私の祖父で、現在は父が二代目として会社を経営しています。その父も高齢となり、次の承継を考える必要が出てきました。
元々は継ぐ気がなかったのですが、今は私が継ぐしかないと思っています。ただ、会社を存続させることや、200名もの従業員を管理することへのプレッシャーが大きく……世の二代目・三代目社長は、どのようにこのプレッシャーと向き合っているのでしょうか。安東さん、教えてください」
小売業で地域密着、従業員200名というと、複数の店舗を展開するスーパーなどでしょうか。三代続くほどの会社ですから、きっと地域の方にも愛されているのですね。とても素晴らしいことですが、そのぶんプレッシャーもひとしおかと思います。
ご相談者様は恐らく、重圧を感じつつも「会社のためにも地域のためにも、自分が継ぐしかない」と考えておられるのではないでしょうか。そのうえで今回は、事業承継のプレッシャーと向き合うために踏まえていただきたい2つのプロセスをお伝えします。
最初にやるべきは、先代と向き合って話をすることです。
先代がどんな想いと信念をもち、どんな将来を目指して経営してきたのか。事業を通じて地域にどんな影響を与え、後継者には何を期待しているのか……ご相談者様の場合は先代が二代目ということですから、事業承継に際しての苦労や葛藤についても聞けるはずです。
また、恐らく先代は経営上のトラブルも何度も経験しているでしょう。中には、倒産が脳裏をチラつくような大きなピンチもあったのではないでしょうか。そうした危機を、どんな気持ちでどのように乗り越えてきたのか。ぜひ、深く話を聞いてみてください。
先代経営者は、これから継ごうとしている事業を何十年も手掛けてきたもっとも身近な生き字引です。その先代から経営のエピソードを聞けば聞くほど、会社への愛おしさが増し、会社の歴史に対する尊敬の念も抱けるようになります。そして、この愛着や尊敬がある場合とない場合とでは、事業を継いだ後の世界の見え方が全く違ってくるのです。
一対一では話しにくい場合は、外部のコンサルを入れるという手もあります。まずは先代と膝を突き合わせ、会社のこれまでとこれからについてとことん話し合ってみてください。
次にやるべきことは、自分自身と向き合うこと。なぜなら、経営者には「自分が会社のこれからをつくる」という覚悟が求められるからです。
言うまでもないことですが、経営は楽しいことばかりではありません。どんな経営者も、正解のない中を手探りで進み、乗り切れない波も乗り切りながら未来を拓いていく必要があります。もし覚悟がなければ、すぐに気持ちが折れてしまうでしょう。
そして、覚悟をもつためには、ご自分が三代目として会社を継ぐことに対して「本当にこれでいいのか」「本当に自分はそれをやりたいのか」「本当にこの選択で後悔しないのか」と自問自答し、納得のいくまで考え抜くことが大事なのです。
自分が継ぐことを期待されている、継ぐしかない……という気持ちは一旦横に置いておき、「もし継がない選択肢があるとしたらどうするか」を徹底的に考えてみてください。そのうえで、本心から「継ぎたい」と思えたなら覚悟をもって経営に臨むことができますし、そうでないならば違う道を考える必要があります。
もし覚悟がないまま事業を継げば、心のどこかで「不本意だ」と思いながら重責を担い、人生の大部分を経営に注ぎ続けることになります。その状態で乗り切れるほど経営は甘くありませんし、何よりご本人にとってあまりにも辛いのではないでしょうか。
同族会社ということで、恐らくはしがらみも多いことと思います。しかし、これはご相談者様本人の人生がかかった選択です。周囲の声に惑わされることなく、ご自分にとって後悔のない決断をしてください。
会社を存続させる方法は、同族間承継だけとは限りません。覚悟をもてないまま同族承継を慣行するよりも、外部から後継者を選んだほうが良い結果につながることもあります。ぜひ「自分が継ぐしかない」という気持ちにとらわれず、幅広い選択肢を視野に入れながらじっくり考えてみてはいかがでしょうか。決断するのは、それからでも決して遅くないはずです。
まずは先代と徹底的に向き合って、会社への愛着やリスペクトを深める努力をする。そのうえで自分自身とも徹底的に向き合って、後悔のない決断をする。この二つのプロセスを踏まえていただくと、プレッシャーに負けない覚悟をもった事業承継ができるのではないかと思います。