今回のテーマは「数字意識のある社員を育てる方法」です。
先日、経営者の方から「社員の数字意識」についてご相談いただきました。
「これから会社の規模拡大を目指すにあたって、社員の数字意識があまりに低いことに不安を感じています。先日など、売上や利益の話をしようとしただけで『数字は苦手なので……』と逃げられてしまいました。今いる社員はもう諦めて、数字に強い人を雇った方がいいのでしょうか?」
このような数字アレルギーぶりに直面すると、私たち経営者は「頼りないな……」と不安に感じてしまいますよね。
しかし、実はこうした数字への苦手意識と、数学的な才能や能力はほぼ関係がありません。つまり、今いる社員の皆さんも十分に、数字に向き合えるようになる可能性をもっています。ですから、ここでは採用より「数字意識の育成」に注力していただく方が、組織全体の成長につながるのではないかと思います。
社員の数字意識を育てるためには、まず「数字で叱らない」ことが大切です。
これは、弊社のクライアントから教えていただいた考え方です。その会社では、社員の方々が総じて高い数字意識を持ち、売上や利益にコミットしていました。
私は初め「厳しく数字を追求しているのだろうな」と考えたのですが、実際はその逆。社員の皆さんは和気あいあいと団結し、まるでゲームを楽しむように数字に向き合っているのです。そこで「何かコツがあるのですか?」とお伺いしたところ、返ってきたのが「数字で叱らないことです」というお答えでした。
そのクライアント曰く、数字に苦手意識が強い人は、「数字の未達をきつく責められた」「降格させられた」など、何かしら数字に関する嫌な経験をしていることが多いそうです。
数字で嫌な思いをすると、数字に向き合うことから無意識に逃げるようになる。そして逃げれば逃げるほど、ますます苦手意識が強まる負のループにはまってしまう。だからこそ、数字で叱らないこと=数字を理由に責めないことが大事なのだと教わりました。
そもそも、数字の上下そのものを褒めたり、叱ったりするのはあまり生産的ではありません。数字はあくまでも、何らかの行動をとった「結果」にすぎないからです。
数字が上がったなら、その結果を生んだ行動プロセスや考え方を賞賛する。反対に数字が下がってしまった場合も、思考や行動に原因を探してアドバイスします。例えば「この段階でPDCAが止まったんじゃない?」「この考え方を変えないと、数字は上がらないかも知れないよ」など……。
数字が上がるにしろ下がるにしろ、その背景には必ず人の考えや行動が存在します。この「背景」にフォーカスすれば、うまくいった理由や改善するべき点が見えてきて、次にとるべき行動を考えられます。それが社員の苦手意識を解きつつ、数字へのコミット度を高めていくためのポイントです。
数字意識を高めるには、数字を「身近なもの」にすることも必要です。
最初にお伝えした通り、数字への苦手意識と数学的な能力はあまり関係がありません。なぜなら会社の財務で使う計算は、基本的にはシンプルな四則演算しかないため。これができない人は、そう多くないはずです。
どちらかといえば、計算というよりも用語の意味や表の見方がわからないことで苦手意識を抱く社員が多いのが実情です。また、「財務情報は経営層が見る特別なもので、自分には関係ない」との誤解から数字を敬遠するケースもよく見られます。
こうした問題は、実際に数字に触れる機会や、その意味を教わる機会を増やすことで解消できます。数字を特別なものから身近なものに変え、背景にある考えや行動に注目しながら改善点を探していく。この繰り返しが、社員の数字意識を少しずつ高めていくことにつながります。
数字意識を育てる取り組みは、成果が出るまでにある程度長い時間が必要です。
弊社でも「数字で叱らず、背景を見る」の徹底、外部の財務コンサルを交えた全社型の経営会議といった取り組みを継続していますが、「数字意識が変わってきたな」と実感したのは、取り組み始めて5年ほど経ってからでした。
根気がいるのは事実ですが、それでも「育てる」意識をもてば、社員への苛立ちや失望感を減らせます。何より、数字に苦手意識をもたず、その裏にある行動・考え方を見られる社員が育てば、会社の業績もぐっと上向いていくはずです。
ぜひ諦めず、長期的な目線でチャレンジしてみてください。きっと貴社にとって価値ある取り組みになりますよ。