
先日、起業して10年という経営者の方からこんなご相談をいただきました。
「業績は伸びていますが、売上2億円のうち1.5億は私ひとりの営業成果。残りの5千万円を3名の社員が売り上げています。社員は皆まじめですが、自主性がなく言われた以上のことはしません。社内の雰囲気もいいのですが、どうも馴れ合いのように感じてしまいます」
「私は一体感のある理念経営を目指しているので、社員にはもっと前のめりで経営に参画して欲しいのですが……安東さんなら、自主性のない社員をどのように成長させていきますか?」
ご相談内容からは、強い責任感をもってお客様に尽くす経営者の姿が浮かんできます。社内の雰囲気もよく見ておられるあたり、その責任感は社員に対しても発揮されているのでしょう。きっと「頼れる社長」として、社員の皆さんからも慕われているのではないでしょうか。
しかし、あまりに責任感が強すぎると、時に思わぬ落とし穴にハマることがあります。あるいは、社員がなかなか自主性を発揮しないのもその落とし穴のせいかもしれません。
そこで今回は、リーダーの強すぎる責任感がもたらす「光と影」について考えていきます。
強い責任感をもつリーダーは、総じてとても世話好きです。だから、お客様に何を聞かれても迅速に答えられるし、社員の質問や相談にもすぐサポートを提供できる。信頼されることはもちろん、その期待に応えて人に尽くすことを喜びとしているのです。
リーダーのこうした献身的な姿勢は、チームに安心感を与え、士気を高めることにつながります。これが、強い責任感をもつリーダーの「光」の部分です。
一方、このタイプのリーダーには「影」の側面もあります。それは、無意識のうちに「必要とされること、頼られること」「自分だけが応えられること」にプライドをもちやすい点です。その結果、部下が成長したり自分と肩を並べたりすることを、自覚なく防ごうとしてしまうことがあるのです。
無意識に責任ある仕事を与えないようにしたり、お客様のあらゆる要望に自分が対応しようとしたり。結果として、知らず知らずのうちに成長の機会を奪ってしまう……これが、強すぎる責任感がもたらす「影」の部分です。
この影の部分がさらに濃くなると、「リーダーにしかできない仕事がある」状態、つまり属人化が加速します。社長が出ないとお客様が満足しない、社長がいないとビジネスが成り立たない……このような状態になってしまう。これではビジネスに再現性が生まれません。この落とし穴にハマってしまう社長は、想像以上に多いものです。
さらに問題が深刻になると、お金の問題を抱えてしまうケースも少なくありません。たとえば、社員のためにと無理をしてまで高い給与を払う、お客様を喜ばせようと過剰な安売りを行う、など。
すると、「利益が出ないから、社長が忙しく働く」「社長が忙しいからマネジメントに手が回らない」「マネジメントができないから組織がまとまらない」「組織がまとまらないから利益が出ず、社長が忙しく働く」と、なかなか抜け出せない負のループに陥ってしまいます。これが、過剰な責任感が生む「影」の怖いところです。
もちろん、社内の士気を高める「光」の部分をセーブする必要はありません。しかし、光が強ければそれだけ影も濃くなるもの。強すぎる責任感にはリスクも伴うという認識のもとで、「社員の自主性を奪っていないか?」「お金の問題を生んでいないか?」と常にチェックする必要があります。
責任感や貢献心は組織を支える一方で、過ぎれば社員の自主性を奪うリスクにもなります。「全て自分がやらなければ」「全員を自分が助けなければ」という強すぎる責任感は、意識して手放していきましょう。
経営者が無理をしたり、利益を削ったりして行う貢献は長続きしません。反対に、経営者が自分を守ることは、結果として社員の自主性を育み、ビジネスの持続性につながるのです。
自分を大切にすることを通じて社員とお客様を大切にする。自分を守ることで、組織の未来を守る。ぜひ、この視点で経営を振り返り、ご自身が「抱え込みすぎていないか」を点検してみてください。