
今回のテーマは「理念で飯は食えません」です。先日、クライアントの経営者の方から「理念経営は大事だと思いますし、自分も100%共感します。しかし、それが業績に連動するかどうかは別の話だと最近思うのです。誰かのためになる仕事をするという理念を掲げ、大切にしていますが、それだけでは業績は上がりません。結局、理念経営って綺麗ごとなんじゃないかなと思ってしまいます。安東さんのご意見をお聞かせください」というご相談をいただきました。
ご相談ありがとうございます。中小企業を経営していると、定期的にこういった疑問にぶち当たりますよね。正直に言うと、私自身は「理念なしに経営は成り立たない」と考えています。今回は、理念経営のメカニズムをお伝えしていきます。
理念には様々な定義がありますが、私たちが考える理念とは「その会社が存在する理由」であり、「目指している世界観」です。何のためにその会社があり、何を成し遂げたくて事業をやっているのか。こういった目的がないと、会社のあり方は簡単に揺らいでしまいます。ただ「社長になりたかったから」という思いで経営をしている会社は、きっと人を惹きつけることはないでしょう。
私は、長く事業が存続するためのポイントは「その会社が存在することで世の中が良くなったり、顧客が便利になったりしているのか」だと思います。たとえば、ブレインマークスの理念は「ビジネスで人々を幸せにする」です。一人ひとりの社員が仕事を楽しみ、誇りを持って働ける。クライアントが経営を楽しめて、その会社の社員も幸せに働けている。理念に本気で取り組み、幸せな人たちを増やしていけば、将来的に社会にも良い影響が波及していくはずです。
このように会社が存在することで、結果的に世の中が変わっていくことこそが、長期的に会社が続いていく理由となります。
ここで、アメリカのホールフーズ・マーケットの創業当時のエピソードをご紹介します。
ホールフーズ・マーケットがテキサス州・オースティンで開業してすぐ、歴史に残る大洪水が街を襲いました。市全体の被害総額は現在の価値で1億ドルに上り、ホールフーズ・マーケットの店舗も浸水して機器が全壊するなど、大きな打撃を受けました。自然災害による損害の場合は保険がおりないことが多く、設立1年目の若い会社にとって、この状況は事実上の倒産を意味しました。
頭を抱えていた経営者・マッキーの前に、店をひいきにしていた顧客たちが続々と現れ、店舗の復興のために力を貸してくれました。それを見た従業員も店を取り戻したい一心で無償で懸命に働くようになったのです。
ある日、マッキーは助けてくれる顧客に「何の見返りもないのに、なぜここまでしてくれるのですか?」と尋ねました。すると、顧客はこう答えました。
「ホールフーズは、私の生活の大事な一部。ホールフーズのない生活なんて考えられない。ホールフーズのない街になんて住みたくないんだよ」。
この言葉を聞いて、マッキーと従業員は志を新たにしました。「こんなにも愛してくれるお客様のために、何としても事業を再開し、お客様の暮らしを良くする商売をしていこう」。そう思ったのです。
ホールフーズ・マーケットはオーガニックを中心としたスーパーで、健康な食材を安く届けることにこだわっていました。その想いに共感した人たちが力を貸してくれたのです。先ほどの顧客の言葉からもわかるように、顧客にとって特別な存在意義を持つから、事業は存続します。また、存在意義が明確であればあるほど、社会がその会社を潰させません。会社の存在する目的をはっきりと打ち出すと、短期的に儲かることはないけれど、長期的な視点で見ると、多くの人からの応援に繋がるのです。
私自身は、ビジネスを等価交換だと考えています。私たちが顧客や社会、世の中に貢献して人々の暮らしを変えたその対価が、提供した価値と同じ分だけお金として返ってくるということです。しかし、そもそもどんな価値を提供するのかは、企業が「何のために存在するのか」という理念によって決まります。だからこそ、理念なくしてビジネスは成り立たないのです。
ただし、ただ理念があるだけでは利益は生まれません。私たちに必要なのは、理念を着実に実現する事業をつくりだす技術を身に付けることです。理念を期限付きのビジョンに落とし込み、事業戦略をつくれたら教育・組織づくり・マーケティングなどの方針も決定できます。経営者は理念を実現するための経営の技術を学び、実践して世の中への提供価値を高めていきましょう。
今回は理念が経営に必要な理由を解説しました。社会に対して崇高な意味を持つ理念があれば、必ず事業が成長する時が訪れます。今回ご相談していただいた方も、「誰かのためになる仕事をする」という理念を体現する事業を展開し、世の中に良い影響を与えていけば、顧客や取引先、従業員を含めて応援してくれる人が必ず現れます。自分自身の夢や理念を信じて、取り組んでみてください。