今回のテーマは「なぜ、あなたの会社の社員は受け身なのか」です。
先日、クライアントから「社員の主体性」についてご相談をいただきました。
「手前味噌ですが、弊社の社員は真面目で思いやりもある良い人材ばかりです。しかし、ひとつだけ『受け身』という欠点があります。私が何か提案すればすぐ動いてくれる一方で、社員からの主体的な提案や行動がほとんどないのです。どうすれば、もっと社員と一緒に会社の未来をつくれるようになるのでしょうか」
この経営者の方は、社員に指示を出すばかりの現状に孤独を感じておられるとのことでした。そのつらい気持ちは、私にもよくわかります。
なぜなら、弊社も過去にほぼ同じ状況に陥り、試行錯誤の末に改善した経験があるからです。そこで今回は、社員が受け身になってしまう理由や、主体性を身に着けてもらうための具体的な方法について、弊社の実体験を振り返りながらご紹介します。
私が社員の「受け身」に危機感を抱いたのは、5年ほど前のことでした。きっかけは、弊社が長年手がけている会員制サービスの資料が、10年前からまったく改善されていないのに気付いたことです。
フォーマットの改善も、時代に応じたアップデートもなく、私の似顔絵すら若い姿のまま。それなのに、社員は何の疑問も抱かず運用し続けている……。「私が一から十まで指示しなければ、この会社は現状維持しかできずに衰退していくのか」と、ショックを受けた瞬間でした。
しかし、なぜこのような状態に陥ったのか、私は疑問でもありました。今回ご相談いただいたクライアントと同じく、弊社の社員も真面目で協力的な人ばかりだったからです。
提案したことには真摯に取り組んでくれるのに、なぜ主体的に動くことはできないのでしょうか。その原因を探るために、私は現場をよく観察してみました。すると、社員の間に「悩んだ時は自分で考えず、安東さんに聞くのが正しい」という考えが根付いていることに気付いたのです。
振り返ってみれば、私は社員から何か相談された際、すぐに答えを教えることはあっても「あなたはどうしたらいいと思う?」と意見を求めたことはほとんどありませんでした。もしかすると、無意識のうちに「どうせ、社員から改善案は出ないだろう」と考えていたのかもしれません。
そして、これを積み重ねた結果、社員は「アイデアや改善案を考えるのは安東さんで、それを遂行するのが自分たちの仕事」だと誤解してしまった。つまり、社員が受け身になった理由は、知らず知らずのうちに「主体性をもてない環境」がつくられていたからだったのです。
それから私は、社員に主体性を発揮してもらうための「環境づくり」と「トレーニング」に取り組みました。それぞれ何を行ったのか、具体的にご説明します。
まず「環境づくり」の面では、社員に対して”理想の共有”を行いました。この部門は、どのような状態に到達するのが理想なのか。このサービスによって、お客様とどんな関係になるのが理想なのか……。経営計画書などを通じて、各業務やサービスの「理想像」を社員に伝えたのです。
これは、社員に理想と現状のギャップを認識してもらうためです。課題を見つけるためには、まず理想という明確なゴールを示し、進むべき方向を共有する必要があるということですね。
そして「トレーニング」の面では、社員への“相談”を行いました。目指す理想をあらかじめ示したうえで、「どうすればこの状態に近づけると思う?」と、社員に問いかける機会を増やしたのです。
最初はズレた意見が出ることも多々ありましたが、コツコツと練習を繰り返すうちに、主体性のレベルと共にアイデアの精度も上がっていきました。そして数年が経つ頃には、私が問いかけなくとも各人が常に理想を意識し、そこに近づくために自ら考えて行動する習慣がついていったのです。
社員が主体性を発揮するためには、目指すべき理想を共有して意見を出し合える「環境」と、自ら考え行動する習慣をつけるための「トレーニング」が必要です。そして、経営者が社員に“相談”するトレーニングは、社員が「自分は会社づくりに必要な存在なんだ」と実感し、会社への愛着を深めることにもつながります。
すぐには成果が出ないかも知れませんが、3~5年程度を目安に根気強く取り組んでみてください。そうすればきっと、頼もしく主体性を開花させた社員の皆さんと一緒に、会社のよりよい未来をつくっていけるようになるはずです。