今回は、書籍「町工場の全社員が年収600万円以上もらえる理由」を中小企業の経営に活かす方法についてご紹介します。
著者は、吉原博。神奈川県のワイヤー製造業、吉原精工株式会社の会長です。この会社は経営改革により、社員7名ながら「完全残業ゼロ」を達成。その取り組みが「2016年厚生労働省働き方改革パンフレット」に紹介されたのをきっかけに、多数のメディアにも取り上げられた、注目の企業です。
今回は、どうすれば生産性の高い会社になれるのか、残業を減らすプロセスや効果とともにご紹介していきましょう。
吉原精工のホームページを見てみると、「前加工・後加工はできません」「施工素材の手配は原則として行なっておりません」「加工の集配は行なっておりません」などの文言が並んでいます。
彼らは、やらないことを明確にすることで、やるべきことのレベルを高めているのです。それにより高い生産性を発揮し、残業ゼロにも関わらず「全員のボーナスの手取り100万超」「年3回10連休」を実現しています。
このモデルから、私たち中小企業が学ぶべきことは多いのではないでしょうか。
意外なことに、吉原精工にもブラック企業だった時代がありました。残業時間は月80~90時間を超え、過労死レベルだったそうです。しかしバブル期に入り、有効求人倍率が上がったことで、なかなか人を雇えなくなりました。
著者は人を雇える会社にするにはどうすればよいか考え、自身が会社員時代に「残業をしたくない」と思っていたことを思い出しました。そこで、残業のない会社をつくれば、若い人を雇えて競争力が上がるのではと考えたのです。吉原精工が「脱ブラック企業」を目標に掲げたのは1990年代ですから、かなりの先見の明がありますね。
その後、少しずつ残業を減らしていく中で、リーマンショックで倒産寸前の状態に陥った際、社員から「お金がないなら時間をください」と言われ、ついに完全なる「残業ゼロ」へ舵を切りました。すると、社員の心身にゆとりが生まれ、指示待ちがなくなり、一人ひとりが主体的に動くようになったのです。
ここからは私の想像ですが、「残業ゼロで給与が高い」という会社なので応募がたくさん集まり、多数の人材の中から優秀な社員を選べたのではないかと思います。つまり、会社の環境を良くしたことで応募が増え、よい社員を雇える。そこから会社がさらによい状態になり、自主性・主体性がある社員をまた雇える・・・というよい循環が回っていく。これは経営者が覚悟を決め、「残業」を断ち切ったからこそ生まれた好循環ですね。
さらに、残業ゼロの実現によって、効率化も可能になりました。そこからコスト削減にも取り組んだ結果、利益も向上。「より高くよりよいものをつくる努力」の積み重ねも功を奏し、どんどん事業の競争力が高まっていったのです。
残業ゼロは、吉原精工が小規模だから・製造業だからできたのではなく、どのような会社であっても実現可能です。
特に大切なのは、「残業を減らしても給与は減らさず、残業代込みの給与を維持しながら残業を減らしていくこと」です。これに挑戦することで、生産性も収益性も高く、優秀な社員が採用できてみんながワクワクする会社に近づいていきます。
そのためには、覚悟を決めてやり切ることです。たとえば、今すぐ残業ゼロは難しいとしても、毎年10%ずつでも数値を決めて取り組めば、確実に実現していけるのではないでしょうか。
現在、バブル期と同じ有効求人倍率となり、人が雇えない時代になりました。そんな今こそ、生産性の高い会社に変わる覚悟さえ持てれば、会社が再生するきっかけになるかもしれません。
ピンチの裏側には、いつもチャンスがあります。人が雇えない今こそ、会社を変えていく大きな分岐点だと考え、まず一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。きっと、より良い会社に変わっていけますよ。