今回のテーマは「離職を減らす4つの取り組み」です。
先日、採用支援事業を手掛けている方から、離職についてご相談いただきました。入社1年目での離職が多く、人が定着しないことにお困りとのことです。
「さらなる成長にアクセルを踏みたいのに、離職がブレーキになっています。採用自体は本職なのでうまくいくのですが…。定着しないとお客様にも迷惑がかかりますし、当然業績にも影響し始めています。安東さんは社員定着をどのように考えておられますか? また、離職の多いクライアントにどんなアドバイスをされていますか」
短期離職が多発するケースでまず考えられるのは、採用のミスマッチです。ただし、今回のご相談者様は採用支援が専門ですから、採用ミスの可能性は除外して対策を考えていきます。
採用ミスがないのに社員が定着しないということは、組織のどこかに「長く働けない」と思われる要素があるということです。まずはマイナス要素を排除し、その上で会社の魅力を高めて離職を防いでいきましょう。
会社の魅力を決定づける要素は、主に①会社の理念・ビジョンの魅力②組織風土の魅力③事業の魅力④条件の魅力の4つです。今回は、この4つの魅力を高める取り組みについてご紹介します。
理念やビジョンは、社員が会社の未来に抱く信頼感や期待感を決定づけます。ただし、「人が好印象を抱くような理念さえ掲げればよい」というわけではありません。大切なのは、理念やビジョンと経営者の姿勢に「一貫性」があることです。
経営者が誰より真剣に理念の実現を目指し、挑戦し続けていること。経営判断のすみずみにまで理念・ビジョンを落とし込めていること。経営者には、この一貫性が求められます。理念に対する経営者の一貫性ある姿勢が、社員の共感を呼び、組織に対する信頼を高めるのです。
反対に、社員が離れる原因としてよくありがちなのが、理念よりも売上を重視しているケースです。もちろん売上は重要ですが、組織として目指す目的が売上そのものになっては本末転倒です。「理念実現のためにビジョンがあり、ビジョン実現のために売上がある」まずは、経営戦略がこの流れに合致しているか点検してみてください。
人材定着のためには、社員が安心して働ける組織文化も重要です。
例えば「数字が下がるとひどく責められる」「給与が極端に変動する」といった環境は、社員の不安や委縮につながり、離職率を高めます。社員に長く力を発揮し続けてもらうために、安心してチャレンジし続けられるような組織風土をつくりましょう。
具体的な取り組みとしては、コアバリュー(会社が大切にする価値観)の徹底した共有・浸透や、コアバリュー体現者の表彰制度などが挙げられます。ここでも大切なのは、まず経営者から率先して価値観を体現していくことです。
社員が「この事業に関わり続けたい」と感じられるかどうかも、定着率に大きく影響します。特に重要なのは、事業に対する誇りや面白さを感じられるかです。
例えば、弊社では「お客様から直接感謝される場面」を社員が多く経験できるよう工夫しています。自分の仕事が役立っていると実感し、お客様への思い入れを深めることが、事業を好きになることにつながるためです。
また、事業の魅力を高めるためには「仕事を通じて成長できた」という実感も大切です。教育や研修を通じて社員の成長を支援し、成果が出たらしっかり認めて評価する。こうして社員が成長実感を得ることは、やりがいアップにつながり、結果として定着率の向上に寄与します。
定着率を高めるには、待遇や福利厚生の整備も必要です。働きやすいオフィスを整備する、業績が好調な場合は決算賞与を支給するなど、利益を社員に還元する仕組みを整えましょう。
コストをかけにくい場合も、取り入れられる工夫は多々あります。例えばアニバーサリー休暇の導入や、1時間単位で有給を取得できる制度などはその筆頭です。柔軟に働ける環境づくりは、社員のワークライフバランスを支え、「ここで働き続けたい」という気持ちを強化します。
なお、せっかく制度を充実させても、就業規則に記載するだけでは社員に気づかれないことも。福利厚生についての情報を分かりやすい形で発信するだけでも、社員の会社に対する印象は前向きに変わります。
最も大切なのは、経営者が会社の魅力向上に取り組む姿勢を示し、日々行動を重ねていくことです。
会社の魅力を高めるとは、言い換えれば「社員の人生の豊かさ」を追求することでもあります。現状をすぐに変えるのは難しくとも、ぜひ真剣に向き合ってチャレンジし続けてみてください。常に改善を目指し続ける姿勢こそが、社員の期待と信頼を生み、離職を減らしていくはずです。