今回のテーマは「人を大切にするマネジャーの落とし穴」です。
先日、クライアントから”人を大切にしすぎるマネジャー”についてご相談をいただきました。その社員の方はもともと世話好きで、人の成長支援にも喜びを感じられる性格であったことから、期待を込めてマネジャーに抜擢したそうなのですが……
「彼ならメンバーを引っ張りながら目標を達成してくれるだろうと思ったのですが、実際は違いました。どうやらメンバーの感情を過剰に気にしたり、人の仕事を引き受けすぎたりしているようです。結局チーム目標は未達成ですし、メンバーも活躍している実感を得られていない様子で……どう働きかければ、この状況を打開できるのでしょうか」
人を気遣うあまりに、成果が出せないマネジャー。実は、このような状況に悩んでいる会社は少なくありません。弊社もまた例外ではなく、似た課題に何度も直面してきました。
そこで今回は、こうしたマネジャーが成果を出せない理由や、マネジャーとして成長してもらうための方法について、私なりの考えをお伝えします。
面倒見がよく、人の成長を支援する意欲もあるのに、マネジメントがうまくできない理由。それは、ひとことで言えば「マネジャーとしての視座を持てていないから」です。
メンバー一人ひとりの感情やキャパシティを気遣うのは、悪いことではありません。また、プレイヤー時代であれば、こうした配慮が良い結果に繋がることもあったでしょう。しかし、マネジャーの仕事はメンバーの世話を焼くことではなく、チームを設計して目標を達成することにあります。
チームを設計するとは、チームの力を最大化する方法を考え、実践するということ。そして、そのためには視点の高さをぐっと上げて、チーム全体を見渡しながら作戦を考えなければなりません。これが、マネジャーとしての視座を持つということです。
まずはこの前提をマネジャー本人と共有し、少しずつ練習を積みながら視座を上げていくことが、現状を改善するための第一歩になるでしょう。
具体的には、以下に挙げるような意識を持つことが、視座を上げることに繋がります。
それぞれの項目について、もう少し詳しく掘り下げてみましょう。
先述のとおり、マネジャーの役割は「目標を達成するためのチームを設計すること」にあります。中小企業の場合は人員の数も多くないことがほとんどですから、限られた戦力の中で目標に到達する方法を考えなければなりません。
今いるメンバーの力や得手不得手を把握し、その戦力をどう使い分ければ最も大きな成果に繋がるかを考える。敢えて言葉を選ばずに言えば、「今ある手駒でどう勝つか」を考えるのが、マネジャーの仕事だということですね。
メンバーの感情にばかり注目していると、「イヤな思いをさせたくないから、言うべきことが言えない」といった本末転倒な状態に陥ってしまいます。マネジャーとして成果を出すためには、常に「目標達成」を最優先に考える必要があるのです。
もちろん、目標のためなら感情は無視すべきという意味ではありません。まずは目標達成を最優先に据え、その上で「どうすれば皆が自主性や誇りを持って仕事に臨めるか」を考える。そうすれば、メンバーが生き生きと働きながら目標を達成するチームを実現できるのです。
マネジャーとして成果を出すためには、「人にフォーカスしすぎない」ことも大切です。なお、この場合の「人にフォーカスする」とは、”この人はやる気不足、この人は成長スピードがいまいち”といった具合に、メンバー個人の状況を気にしすぎることを指しています。
人にフォーカスしすぎると、マネジャーは視野狭窄に陥り、「現状を何とかするには、この人を変えるしかない」と思い込んでしまいがちです。しかし、他人を変えようとする試みは、ただ疲弊するだけで実を結ばないことがほとんど。こうした状況を避けるためには、人にフォーカスしすぎず、常にチーム全体を広く見渡すスキルが求められるのです。
面倒見がよく、人の成長支援に喜びを感じられる性格は、マネジャーにとって非常に大切な資質です。そこに視座の高さが加われば、ご相談のマネジャーはきっと頼もしく成長されるのではないでしょうか。
まずはマネジャーに求められる視座を共有し、練習を積みながら少しずつチーム設計のスキルを身に着けてもらう。時間のかかる取り組みではありますが、ぜひチャレンジしていただければと思います。