著者は、ライター・コラムニストのマシュー・サイド氏。本書では、さまざまな事例を通じて、人が「失敗から学ぶ」メカニズムを解き明かしています。
スポーツ、芸術、そして事業…どんなことでも、成功ばかりし続ける人はいません。失敗にどう向き合い、その結果をどう取り入れるかは、経営にも、経営者の人生においても大切な視点です。
そこで今回は、本書「失敗の科学」から特に印象深いエピソードをピックアップし、失敗と向き合うためのエッセンスをお届けします。
失敗は、どんな業界にも必ず存在します。しかし、失敗の「起こりやすさ」には、業界によってかなり差があることも。本書にはその代表例として、航空業界と医療業界の差が挙げられています。
これらの業界の共通項は、失敗が責任重大であることです。もしも飛行機が墜落すれば多くの人命が失われかねませんし、医療ミスも同じく人の命に直結します。
しかし、両業界の「失敗の起こりやすさ」には大きな差があります。医療ミスの事例は今日でも多くある一方で、飛行機は「世界で最も安全な乗り物」といわれるほど事故が少ないのです。この本では、その根本的な理由を「航空業界には失敗から学ぶ文化があり、医療業界にはそれが無い」ことに見出しています。
では、「失敗から学ぶ文化」とは、具体的にどのような姿勢を指すのでしょうか。本書には、その代表例として、ユナイテッド航空173便墜落事故にまつわるエピソードが紹介されています。この事例について、詳しい内容を見てみましょう。
1978年12月、ユナイテッド航空173便は「燃料切れの失念」という初歩的な人的ミスによって墜落しました。記録からわかった事故の経緯は、以下のようなものです。
実は、墜落30分前の時点で、すでに副操縦士らは「残燃料が少なくなっています」と機長に知らせていました。しかし、機長は反応を示しません。機体の車輪に問題が生じており、その確認に気を取られていたのです。
副操縦士たちは再度燃料不足を伝えましたが、機長は「そんなはずはない」と聞く耳をもちません。車輪の問題に没頭するあまり、時間の感覚が麻痺していたからです。その間にも刻々と燃料は減っていきますが、副操縦士たちは権威ある機長に萎縮し、それ以上強く進言することができませんでした。
そして、ついに機体の第四エンジンが止まります。機長は愕然とし、半ばパニック状態に陥りました。やがて全てのエンジンが止まり、成すすべもなく機体は墜落。乗客乗員合わせて、10名の命が失われる惨事となりました。
なお、この日の機長、副操縦士、航空機関士はいずれもベテラン揃いでした。つまり、スキルの面には何ら問題はなかった可能性が高い。にも関わらず、事故は起きてしまったのです。
ユナイテッド航空はこの事故を機に、失敗のパターンを検証し「人的ミスは人間の特性と限界によって起きる」「人的ミスの多くは、組織のシステム不全で起きる」事実を認識。チームでの意思疎通や相互の状況認識によってリソースを有効活用し、安全な運航につなげるための訓練プログラムを開発しました。
このプログラムは世界中の航空会社に広まり、時代とともにアップデートを繰り返しながら浸透。人的ミスによる事故率の大幅な減少に寄与しています。
航空業界は、失敗に向き合うことで「事故率の減少」という大きな改善に成功しました。この背景には、失敗を隠すことなく、学習機会としてオープンな姿勢で向き合おうとする文化の存在があります。
一方、医療業界にはこうした文化がありません。その代わりに根付いているのは、ミスを”起きてはならないこと”として隠そうとする文化です。本書は、その文化こそが同じ過ちを繰り返す原因だと指摘しています。
失敗を恥や能力不足と捉えるか、「努力次第でなくせること」や「成長に欠かせない学習機会」と捉えるか。組織にとって、この文化の違いは大きなものです。
前者の組織では、ミスの隠ぺいやメンバー同士の足の引っ張り合いが起きることは想像に難くありません。一方、後者の組織では失敗を共有し、メンバー全員で検証・改善を繰り返してより良い未来につなげることができるのです。
失敗そのものではなく、失敗との「向き合い方」が未来を変える。私は本書から、そんなメッセージを受け取りました。
本書からは、失敗を学びに変えるためのさまざまなヒントを得ることができます。ぜひ一度本書をお読みになり、自社が失敗とどのように向き合っているかを点検してみてはいかがでしょうか。