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2019.02.16

コンサルティング

話す力より、聞く力

安東 邦彦

今回、冒頭でご紹介したいのは

かつてコンビニで起こった、ある立てこもり事件です。

 

店内には人質がいて、そのうちの一人は負傷したまま放置されていました。

危険な状況であり、一刻も早い解決が望まれている。

 

このとき、警察官は何をしたか。

通常なら、「説得」をイメージするかもしれませんが、

この場面で役立ったのが、

「聞く力」によって犯人の心情に共感を示すやり方でした。

 

最初は興奮していた犯人も、話しているうちに段々と落ちついていき、

売上をごまかした疑いでコンビニをクビになった事実を打ち明けたそうです。

説得らしい説得はしないまま、事件は解決しました。

 

立てこもり犯と警察。

まったく利害の対立した両者が落としどころを見つけて、

犯人自ら投降するというのは並大抵のことではありません。

 

こうした状況で効果を発揮したのは、話す力ではなく、聞く力でした。

今回は、この「聞く力」についてピックアップし、考えていきたいと思います。

 

 

■「弁が立つ方が有利」は本当か?

 

利害が対立する状況で、交渉相手とどう向き合い、何を話し合うのか。

そして両者が納得できる形でどのように落としどころを見つけるのか。

この過程は、ビジネスにおいても大いに参考になると思います。

 

取引をまとめるシーンをイメージしてみましょう。

これまでの知見から、

「弁が立つ方が有利」という印象を持っている方もいるかもしれません。

 

また、部下との面談の機会には、

会話の主導権を握って自ら話すことで

積極的に部下に対して動機づけをすることが上司の役割である、と捉える傾向もあります。

 

しかしながら、対人関係の中で相手に何らかの良い影響を及ぼすには、

自分が主導権を握るばかりが、得策ではないのです。

■「聞くこと」に関する実験から

 

では実際に、話を聞くことによって相手にどんな影響を及ぼし得るのでしょうか。

 

コロンビア大学(米ニューヨーク州)の

ジョエル・ブルックナー、ダニエル・アメス、リリー・ベンジャミンの3人の研究者が、

「聞く」という行為に関する実験を行なっています。

 

その実験は

「The role of listening in interpersonal influence

(対人関係の影響における「聞くこと」の役割)」と題されています。

 

実験はイースト・コースト大学の経営学修士課程(MBA)に在籍する

学生274名に対して行なわれました。

被験者の男女比は64:36で、平均年齢は28.3歳です。

 

被験者を評価するのは彼らの元同僚です。

元同僚たちは、被験者についてのいくつかの質問事項に

「まったくそうではない」から「いつもそうしている」までの7段階で評価します。

 

その質問事項というのが、

「聞く力」や「職場での影響力」に関するものなのです。

 

例えば「聞く力」については、職場における被験者の聞く態度について、

「打ち解けて情報共有しようとしているか」

「効果的なフィードバックや代替案を提案するために聞いているか」

「他の誰かが話しているとき、割り込んだり、イライラしたりしているか」

というような質問を投げかけます。

 

また、「職場での影響力」については、

「他人を説得して意見を変えさせることができるか」

「違った意見や利害関係をもつ人と協力関係が築けるか」

「会議や面談をうまく運営できていたか」などを聞く、といった具合です。

 

重要なのは、上記の

「聞く力」と「職場での影響力」にどんな相関関係があるかということです。

 

 

■「聞く力」はすべての土台

 

詳細なデータは割愛しますが、結論を申し上げると実験結果は、

職場での影響力と聞く力には深い相関関係があることを示すものでした。

 

いくら説得力のある意見を述べたり、

明確な主張ができたりしたとしても、

それだけではあまり影響力がないとしています。

 

むしろ、自分が喋るばかりで話を聞くのが下手な人は

職場での影響力が小さい傾向にある、という結果も出ています。

 

とは言え、「周囲から一目置かれるリーダー像」には

雄弁に語り、周囲の反対があったとしても説得して前に進んでいくという

イメージがあるのも確かです。

 

大切なのは、そうしたリーダー像を支える雄弁さも

「聞く力」なしでは成り立たない、ということです。

 

上手に話す能力に、上手に聞く能力が組み合わさって初めて、

職場での影響力を得られるのです。

 

 

■聞き方の種類

 

最後に、「聞く」という方法について、もう少し具体的に見ていきましょう。

 

聞き方の種類に、「アクティブ・リスニング」という手法があります。

 

これは、注意深く真剣に話を聞いている姿勢を、

言葉と態度を通して積極的に示し、

相手が話しやすい場を作ってよりよくサポートしていくことです。

うなずいたり、あいづちを打ったりしながら話を聞くというのが、

その代表的な姿です。

 

部下にとっては、辛いときや行き詰まったときには、

的確なアドバイスをもらうよりも

「自分のことを理解してくれた」と感じられることのほうが、

時に信頼度を高めさせることにつながります。

 

その信頼の積み重ねが、影響力につながっていくのです。

 

積極的に人の話を聞いてこそ、他の能力が生きてきます。

経営者には、是非このことを押さえておいて頂きたいと思います。

 

(安東邦彦)

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