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2021.01.21

コンサルティング

ジョブズやコッポラの戦い方 〜恐怖に直面したときに、戦うのか、逃げるのか

安東 邦彦

先行者の背中が見えたときに考えるべきこと

今回は、新たに会社を興そうとするとき、あるいは既存の会社が新たな事業を始めようとするときに、人が陥りがちな心理に対してエールを送る内容です。

何か新しいことを始めようとする場合は、どんな分野であれ先行者がいるものです。

ビジネスにおいてももちろん同様です。新しいアイデアがひらめいて、「これはいける」と思ったとしても、調べてみたらすでに実行している人がいた……。こんなことはざらにあります。

そうした現実に直面したとき、人はどのように考えるでしょうか。

「すでにやっている人がいる。しかも、自分がやろうとしていたことをすでにかなりのレベルで実現している」となれば、一気にやる気が失せてしまうかもしれませんね。

とても今からでは追いつけないし、自分にやれることは残されていないと考えてしまうわけです。

しかし、本当にそうでしょうか。

どんな分野であっても先行者がいるのが当たり前なら、過去にビジネスシーンで革命を起こしてきた人たちにとっても手強い先行者がいたはずです。彼らはいったい、どのようにして乗り越えたのでしょうか。

いくつかの事例を紐解きながら、新たな挑戦の中でチャンスを見出すための心構えについて考えてみましょう。

スティーブ・ジョブズの最大の功績とは

まずは、1929年にアメリカの生理学者ウォルター・B・キャノンによって提唱された「ファイト・オア・フライト」(fight-or-flight)という考え方を紹介します。

これは人間を含む動物が恐怖に直面したときに取る反応についての考察です。それは大きく二つしかありません。

恐怖に対して戦うのか(ファイト)、それとも逃げるのか(フライト)。

もちろん、戦い方や逃げ方のバリエーションは千差万別なのでしょうが、大きくは戦うか逃げるかの選択肢しかないということです。

ビジネス界の巨人、スティーブ・ジョブズの事例から、この「ファイト・オア・フライト」を考えてみたいと思います。

ジョブズといえば、これまでにない画期的な数々の発明を成し遂げたことによって、社会を大きく変えた人物として評価されているのはご存じの通りです。

しかしその評価は、半分は的を射ていますが、半分は的外れと言えるかもしれません。

ジョブズの最も大きな功績として、私たちのライフスタイルを一変させたiPhoneを挙げる人は少なくないでしょう。あるいはそれ以前に、世界の音楽業界に構造改革を迫り、我々の音楽との接し方を変えたiPodだという意見にも納得がいきます。

しかし、それらの源流にあるものに目を向ければ、「直感的な操作」を可能にするアイコンという考え方を採用したことが最も大きな功績なのかもしれません。

以前は煩雑なプログラム言語を駆使してファイルを操作していたものを、ジョブズはドラッグ&ドロップに代表されるマウスを使った簡単な操作で可能にしたのです。

マッキントッシュ開発の裏側にあったジョブズの「恐怖」

この「直感的な操作」を可能にしたことが、アップル社を世界的に知らしめ、ジョブズを一躍コンピューター界の寵児に押し上げたと考えられています。

直感的な操作を支えるのはGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)。マウスの発明があって、初めて可能となった技術です。

これらの技術はジョブズが考え出したと思われがちですが、実はそれは間違いです。なんと両方とも、ゼロックスが開発した技術なのです。

世界で最初にGUIが搭載されたのは、1973年にゼロックスが開発したマシン「Alto」でした。

ジョブズは1979年にゼロックスの研究所を仲間と共に訪れ、Altoのデモンストレーションを目にして度肝を抜かれたとされています。

「この会社はなんでこれを発売していないんだ!? 何が起きているんだ? わからん」

ジョブズはそう叫んだそうです。さらに、「理性のある人なら、すべてのコンピューターがやがてこうなることがわかるはずだ」とも。

ジョブズは他社が開発した技術に圧倒され、恐怖すら感じたに違いありません。何しろ、自分にはなかった発想がそこにはあり、すでに高いレベルで実現されているのですから。

しかし、ジョブズが「私たちにやれることはもう残されていない」とは考えなかったのはご存じの通りです。

その後、彼はGUI技術に磨きをかけて、マウスのデザイン性と操作性を高め、1984年に発売した「マッキントッシュ」でアップルの名を不動のものにしました。

ジョブズなりの「ファイト」の結果です。

コッポラは「世界の黒澤明」にどう立ち向かったのか

もう一つ、映画の世界における事例も紐解いてみたいと思います。

映画評論家の町山智浩氏によると、世界で一番模倣された映画は「七人の侍」だそうです。

有名なアメリカ映画「荒野の七人」は「七人の侍」のリメイクです。世界的にヒットした「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」の戦闘シーンでは、雨の中で弓を引く勘兵衛のショットがそのまま引用されています。

言うまでもなく、この映画の監督は黒澤明です。「七人の侍」だけでなく、黒澤映画は他にもさまざまな作品で真似されています。

例えば、フランシス・コッポラ監督の代表作「ゴッド・ファーザー」冒頭の結婚式のシーン、これは黒澤映画「悪い奴ほどよく眠る」の手法を模したと言われています。

コッポラは黒澤映画の結婚式のシーンを観て、「やられた!」と思ったことでしょう。すでに映像表現として出来上がったものが目の前に映し出されているのです。

しかしコッポラは、「私にやれることなどもうない」とは思わずに、自分の映画の結婚式のシーンに引用することで、映画全体を貫くイタリア系移民のアメリカ社会での有り様を描いてみせたのです。

ジョブズやコッポラに共通するのは、恐怖に直面したときに「ファイト」を選んだということ。

そしてそのエピソードは、さまざまな戦い方のバリエーションを私たち伝えてくれます。

もし、あなたのやろうとしていることに先行者がいたとしても、それがかなりのレベルに達していても、それは「よくあること」に過ぎません。気落ちする必要などないし、逃げる必要もまったくないのです。

あなたがやれることは、必ず残されています。

(安東邦彦)

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